東京高等裁判所 昭和35年(ツ)49号 判決
一、なる程原審は被上告人が本件土地を占有すべき正当の権原を有するか否かに立入つて判断していないことは所論のとおりであるが、(被上告人は本件土地を占有する権原として賃借権を主張して居り、もしこれが肯認されれば上告人の本件土地所有権に基く明渡請求権の行使は当然制限せられ、権利濫用又は信義則違反の問題を生ずる余地がない筋合であり、)被上告人に上告人に対抗し得る占有権原がない時は常に信義則違反又は権利濫用とならないものとも云えないのであり、被上告人に賃料支払義務の履行上思わしくない点があれば、これに対処するには自ら別途に方法がある。
二、第一審判決は上告人が予備的請求の原因として「上告人は賃借する建物の屋上に独立した家屋(約六坪)を新築すべく計画し、被上告人の承諾を求めたところ、被上告人はこれを承諾したので上告人はその建築に着手しようとしたところ、被上告人は言を左右にしてこれを妨害するので、上告人は土地の所有権に基き右妨害の排除を求める」ことを主張した旨摘示し、原審第一回口頭弁論期日には、右第一審判決事実摘示のとおりの主張が述べられたことは本件記録上明らかであるが、その後原審第三回口頭弁論期日に上告人の訴訟代理人は「第一次的請求の原因としては、土地所有権に基き、その不法占有者である被上告人に対し建物を収去して土地(建物の敷地)を明渡すことを求め、予備的請求の原因として、昭和三十年五月頃被上告人は、上告人が被上告人に対する金一万一千円の貸金債権の支払を免除し、更に建物建築終了時被上告人に金一万五千円を支払うことを条件として本件建物の屋根の上に建坪六坪の建物を建築することを承認するとの契約が成立したので、上告人は右契約に基いて建築に着手したところ、被上告人はその建築を妨害するから右契約に基き、その妨害の排除を求める」と訂正したこともまた記録上明白である。(原判決は右訂正の点を摘示し、これを判断している。もしこの訂正がないとすれば第一次的に土地の明渡を請求し、第二次的に妨害排除を請求するというけれど明渡請求というも、妨害排除請求というも共に土地所有権に基く権利行使に外ならないから、両者は第一次的請求、予備的請求の関係に立ち得るかどうか疑わしいことを考えれば右訂正は従前の所有権に基く妨害排除の請求をやめて、契約に基く妨害排除の請求に改めたものと見るのが相当である。)そうだとすれば原審が上告人の主張するような契約の成立したことを認める証拠がないことを判示するに止め、被上告人が上告人に対抗し得る土地使用の権限を有するかどうかの点に論及しなかつたことはもとより当然と云わなければならない。
(梶村 室伏 安岡)